宮廷に仕えた画家達の、華麗なる人生
昔の芸術家といえば、偏屈で変人で周囲に理解されず貧乏暮らしのままに死んだ……、なんてイメージも強くありますね。一方大成功して華やかな人生を送った人も少数います。特に皆が「彼のような絵を描きたい、というより彼の人生を生きたい」と口を揃えていうのが、17世紀の画家、ルーベンス。そのルーベンスの作品をモチーフにしたのがここで紹介するワンピースです。
法律家の父と名家出身の母の元にドイツで生まれ、きちんとした躾と教育を受けて育った、フランダース(現在のベルギー内)のルーベンス(1577- 1640年)。画家として志したもののその品位と知性と勤勉さ、さらに人当たりの良さとイケメン加減、立ち居振る舞いの優雅さなどもあって、外交官として登用されることに。そこから多くの絵の仕事を、欧州の各宮廷から受けていたようです。

『すいかずらの木陰』
ピーテル・ルーベンス画、1609-10年、アルテ・ピナコテーク蔵(ドイツ)
※ルーベンスと最初の妻の肖像画。結婚を記念して描いたもの。富裕層の貴族並みの装いをしている
「お値段以上の仕上がり!」と各宮廷で引っ張りだこのルーベンス
もちろん人当たりがいいだけでなく、芸術性が高く買われていたのです。彼の絵の躍動感や、ダイナミックな演出のしかたが見る者を感嘆させました。また女性の肌を艶かしく描くことに関しては特別なものがありました。ルーベンスの描く女性の肌は乳と血でできている、と言われたとか。
頼まれた以上の作品を上げてくれることも、注文主をおおいに喜ばせました。古代ローマの慣わしやその神話などをベースに、知識を盛り込み威厳を持たせ格調高く盛りに盛って、二重構造で仕上げてくれるからです。
こちらのワンピースにプリントされているのは、そのルーベンスの作品『無知蒙昧に対する教会の勝利』です。当時カトリックとプロテスタントは激しくいがみあっていました。ここでは(カトリック)教会が、プロテスタント信者を踏みにじって勝利している様が描かれています。知識がある人だけがわかるのですが、激しくディスっています。

左:商品Architecture Poétique、ピンク
右:『無知蒙昧に対する教会の勝利』
ピーテル・ルーベンス画、1577 - 1640年、プラド美術館蔵(スペイン)
※馬車に乗っている女性はカトリック教会を擬人化したもの。教皇の冠が頭上に、また手元には聖体顕示台が。戦車と馬は古代ローマの凱旋行進をイメージ。天使は神のご加護を表す。画面下部の地球と、ウロボロス(尾を噛む蛇)は、カトリックの永遠の支配を象徴。一方車輪の下に描かれるプロテスタント側のメデューサの髪は「嫉妬」、ロバの耳は「無知」、目隠しは「盲目」を表す
ちなみに小説『フランダースの犬』で少年ネロが「死ぬ前に見たい」と教会に見に行った有名な絵は、ルーベンスの「キリスト降架」です。

『キリスト降架』
ピーテル・ルーベンス画、1611-14年、聖母大聖堂蔵(ベルギー)
ルーベンスは宮廷画家となり、また英国からは貴族の称号も与えられ、城を所有するまでの大成功人生を歩み続けました。結局62歳で亡くなりましたが、その原因は「金持ち病」とも言われる痛風で、最後は絵筆を握る指も動かせなかったようです。それでも十分に羨ましい人生ですよね。
お色気パウダーを振りかけることが得意な、ロココ画家ブーシェ
さてこのドレスには色と柄違いのバージョンがあります。こちらはロココ時代を代表する画家の一人、フランス人のブーシェ(1703- 1770年)が描いたもの。ブーシェはルーベンスの絵から色の使い方や筆使い、寓意画のあり方などを習得した画家です。

左:商品Architecture Poétique、青
右:『鳥捕り』
フランソワ・ブーシェ画、1748年、J.ポール・ゲティ美術館蔵(アメリカ)
※タペストリーを作るための下絵として描かれた油絵。この点はルーベンスの「無知蒙昧に対する教会の勝利』と同じ
タイトルは『鳥捕り』。美化、理想化された田園風景のなかで、ある女は指先に鳥を乗せ、ある男は籠に鳥を入れています。鳥籠は求愛の象徴なのだとか。恋愛至上主義に考えていた当時の貴族たちにとって、遊び心に満ちた、甘美な生活を描いた絵だったのでしょう。
ブーシェはルイ15世の愛妾ポンパドール夫人のお気に入りで、彼もまた宮廷画家として裕福な人生を過ごすことができました。画家として王侯貴族が喜ぶ少々えっちな絵を描くだけだけでなく、軽やかさをたたえた室内装飾デザインなどを多く手がけて、ロココ美術を盛り上げました。
しかし重厚感を伴わないロココ美術の時代が終わると「時代遅れ」「軽薄な絵」として、彼の評価はダダ下がりの時代を迎えたようです……。※今はもちろん、再評価されていますよ!

左:『ポンパドゥール夫人』
フランソワ・ブーシェ画、1756年、アルテ・ピナコテーク蔵(ドイツ)
右:『フランソワ・ブーシェの肖像』
グスタフ・ルントベリ画、1695-1786年、ルーブル美術館蔵(フランス)
執筆:鈴木真理子
初の単著『ゴシック&ロリータ語辞典』重版出来!
https://amzn.asia/d/bnoBDjv
ー参考文献ー
★『巨匠たちの迷宮』木村泰司著、集英社刊
★『すぐわかる画家別西洋絵画の見かた改訂版』岡部昌幸著、東京美術刊
★『いちばん親切な西洋美術史』池上英洋著、新生出版社刊
★『楽しい美術図鑑 17・18世紀の美術』クリストファー・マクヒュー著、偕成社刊
★『ロココの世界』マックス・フォン・ベーン著、三修社刊