Ailes du Amour Robe- Art Column-

18世紀フランスの貴族たちが、愛を睦みあったその後は

 このジュリエットの服「Ailes du Amour Robe 」全面にプリントされたのは、18世紀ロココ時代の『庭園の恋人たち』という絵画です。書割のようにも見えますが美しい庭の木陰に、貴族を思わせる恋人たちがいて、ちょっと衣服が乱れていますね。きっと愛を睦みあった後なのでしょう。2人の頭上には幼児二人の彫像があるので、この後の妊娠を示唆するのかもしれません。

 男性は恋人の髪を整えるべく、花を挿してあげている様子。恋人たちの足元にいる犬はスパニエルで、「忠誠」の象徴なのだとか。でも……、彼の目線は恋人の向こうを通りかかった、恋人よりさらに若く、身分の低い花摘みの娘のほうに行っています。恋人と愛を交わしあった後はまた、新しい若い花を摘み取りたくなってしまうものなんですね。

左:『庭園の恋人たち』フランソワ・ブーシェ画、1758年、ティムケン美術館蔵

右上:『庭園の恋人たち』の上部に描かれた幼児の彫像

右下:『庭園の恋人たち』の右下に描かれたスパニエル

人生に必要なものは、エスプリ&コケットリー

 なんともこの微笑ましくも不埒な絵『庭園の恋人たち』は、18世紀にフランスから生まれ、その後ドイツ人によってロココ様式と呼ばれた美術作品の一つです。ルイ15世治世のヴェルサイユ宮殿を中心とした王侯貴族たちの、生活に彩りを添えるために生まれた芸術を指します。ロココの主たる作品は室内装飾で、軽やかさ、エスプリ(機知)、コケットリー(妖艶さ)が人生には必要だという当時の貴族の意識を尊重したものでした。とても裕福で平和で満たされた状況だからこそ、生まれた芸術だといえるでしょう。こんなロココ時代は、ルイ16世の誕生、そしてフランス革命と共に完全に終焉を迎えます。まさに王侯貴族バブルの崩壊前夜の芸術がロココだったわけですね。

『マリー・ルイーズ・オミュルフィ』フランソワ・ブーシェ画、1752年、アルテ・ピナコテーク蔵 ※モデルはルイ15世の愛人の一人。ルイ15世は「最愛王」とも呼ばれ、「鹿の園」と名付ける一角を宮殿に設け、多くの愛人を囲っていた

『ルイ15世』イアサント・リゴー画、1730年、ヴェルサイユ宮殿蔵 ※ルイ15世は後にマリー・アントワネットの義理の父となったフランス王

ロココ時代を代表する画家ブーシェの理想は、ヴィーナスだった

 さてこの『庭園の恋人たち』を描いたのはフランス・ロココ絵画を代表する宮廷画家のフランソワ・ブーシェです。ブーシェはこういった当時の王侯貴族たちのためのお楽しみ絵画も描きましたが、実はローマ神話を主題にヴィーナスを描くのが好きだったそうで、沢山のヴィーナス画に取り組み、死ぬ直前まで描いていたのもヴィーナス画だったとか。彼にとって永遠の憧れの女性だったのでしょうか。

左図:『フランソワ・ブーシェの肖像』グスタフ・ルントベルク画、1741年、ルーブル美術館蔵※宮廷画家として活躍する他、ゴブラン織やセーブル陶磁器のデザイン、舞台装飾などにも関わった

中央図:『ポンパドゥール夫人』フランソワ・ブーシェ画、1756年、アルテピナコテーク蔵 ※ルイ15世の愛妾、ポンパドゥール夫人はブーシェに多くの仕事を依頼し、エロティック部分以外でのロココ芸術を育む、ロココの育ての親ともなった女性

右図:『ヴィーナスの化粧』フランソワ・ブーシェ画、1751年、ニューヨーク・メトロポリタン美術館蔵 ※ポンパドゥール夫人の依頼で描いたもの

 Juliette et Justineのこのワンピースではアレンジを加え、ヴィーナスの息子のキューピッドを散らしています。矢を持って、恋心を仕掛けているようですね。このワンピースを着て出かけたら、新しい恋の出会いがあるかもしれませんよ。華やかに盛られた花々やパールのプリントも、気持ちを盛り上げてくれます。宮廷の貴族の気分になって着るのも楽しいですね!

ドレスAiles du Amour Robe (JSK)

 

執筆:鈴木真理子

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ー参考文献ー

★『知識ゼロからの西洋絵画史入門』山田五郎著、幻冬舎

★『ロココの世界 ー十八世紀のフランスー』マックス・フォン・ベーン著、飯塚信雄訳、三修社

★https://www.metmuseum.org/ja/art/collection/search/435739

★https://www.y-history.net/appendix/wh1003-063_1.html

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