錬金術とバロック装飾のダンス
Juliette et Justineのデザイナー中村真理は、もうずっと魔法、そして室内装飾に強い関心を抱いています。その趣味嗜好が強く現れたのがこのドレスのプリントと言えるかもしれません。

商品Élémentaire Divinité、左:ホワイト、右:イェーロー
服全面にプリントされているのは、バロック様式華やかしき時代に王室などのために建築や庭園、壁紙や家具など室内装飾のためのデザインを手がけた、フランス出身のダニエル・マロー(1661–1752)の作品。彼はルイ14世がバロック建築の代表作とも言えるヴェルサイユ宮殿を作った時代に生きたデザイナーです。ヨーロッパに今も残る建築では最高に華やかなものを見てきた人間と言えるでしょう。

ダニエル・マローの肖像画、アムステルダム国立美術館蔵
宗教問題(フォンテーヌブロー勅令)がありユグノー達がフランスを逃げるように出ていった時、腕のいい職人や有能な人達も多数亡命したと言われていますが、マローもその一人。彼はオランダに逃げました。しかし当時欧州中の憧れの的だったヴェルサイユ宮殿を知る彼はオランダの王室や富裕層に歓待されて、時に英国にも招聘され、各地でフランス仕込みのバロック様式の建物などに関わりました。マローはそのデザインを版画で残しています。

左:1702年、寝室の設計図。スミソニアン・デザイン・ミュージアム蔵
右:ウィリアム3世治世時代のヘットロー宮殿(オランダ)

左:クノイテルダイク宮殿正面(オランダ)
右:ザイスト城の鏡の間(オランダ)
世界の全ては4つの元素でできている
またスカートにプリントされているその絵柄は、錬金術と深く関わる「四大元素」です。今でこそ世の中の物質は118の元素で作られている、と言われていますが、昔は世界は4つの元素「空気・火・水・土」で構成されていると信じられていました。錬金術は「王家の術」とも呼ばれ、この4つから「金」「万能薬」「賢者の石」他を作る研究が錬金術師の間で取り組まれてきました。

左:フロント左側には「火」。煙を前に金槌を持って何か精錬している男達は鍛冶屋でしょうか。
右:スカートのフロント右プリントは「空気」。大空を翼を持つものが手を広げ舞っている様子が見えますね。

左:スカートバック左側には壺から流れる滝や人魚が描かれているので「水」を表しています。
右:残りのバック右側は地球を頭上に抱える男がいるので「土」ということでしょう。
Juliette et Justineが生み出す魔法のドレスになる
そしてこの4つの重なりのない配置は、中村的に「少女」、またタロットの「女教皇」を表現していると考えているそうです。人間が交合のないところから新しい生命を生み出すイメージなのだそう。デザインをしている際、処女懐胎したマリア、交配がなくても卵を産む鶏(ただし無精卵なので鶏にはならない)、自己複製(増殖)能力と分化能力を持つ幹細胞。そんな話が脳裏をかすめたのだからだとか。このJulietteのドレスも、あなたの「純潔」「崇高」な部分を引き出しつつ新しい「美しい自分の時間」を作る魔法のドレスになりますように……。
執筆:鈴木真理子
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ー参考文献ー
・「錬金術 秘密の『知』の実験室」ガイ・オグルヴィ著/創元社
・https://de.wikipedia.org/wiki/Daniel_Marot