プット(羽の生えた幼児)って何者?!
ドレスの胸元にいる天使のような子供は、イタリア語でプット(複数形だとプッティ)といい、羽の付いた幼児を指します。
プットが美術史上に登場したのは、ルネサンス期(14~16世紀)のイタリアです。ルネサンス期より前の中世で描かれるのは、ほぼキリスト教の宗教画。こんな可愛い有翼の子供が描かれるなんてことはまずありませんでした。天使は成人タイプも描かれていましたが、顔に6枚の羽だけ付いたり、顔はなく炎を上げる車輪タイプなどなど、人とは遠い感じで、ほとんど怪物状態で描かれていたのです。それが「古典古代文化復興と人間性を再生させよう!」というルネサンス時代になったおかげで、芸術家はキリスト教以外のモチーフが題材に取ることができるようになります。古代ローマ時代の遺跡も見つかったため、神話のヴィーナスの息子キューピッド(ギリシャ神話だとエロス)のような子供の精霊もあらためて描かれるようになっていくのです。これがルネサンス期のプットの始まりなのです。
左:14世紀に聖書の飾りとして描かれた描かれた天使セラフィム
右「軍神マルスの戦車で遊ぶエロス」西暦98~117年、国立ローマ博物館蔵(イタリア)
ルネサンス初期の頃で有名になったのは彫刻家のドナテッロ(1386-1466年)のプットで、ドナテッロはプットの創始者と呼ばれることもあるようです。
左「踊るプット」ドナテッロ作、1417年
右「システィーナの聖母」ラファエロ作、1513-14年、アルテ・マイスター絵画館蔵(ドイツ)
プットは羽の生えた幼児で、いたずら好きそうな神や精霊だったはずなのが、こうして幼児の天使がたくさん描かれるようになって、天使とも思われるようになっていったようです。楽器を持った幼児の奏楽天使なども登場するようになりました。左「リュートを弾くプット」フィオレンティーノ作、1521年、ウフィツィ美術館蔵(イタリア)
右「ヴィーナスへの奉献」ティツィアーノ作、1518-19年、プラド美術館蔵(イタリア)
猫は神様? それとも悪魔の手先?
猫が誕生したのは古代エジプトで、ペットとして飼われるようになったのは4000~9500年前では、と言われています(諸説あります)。その多産性から豊穣神と結びつき、蛇神と戦う太陽神ラーは雄猫、月女神バステトは雌猫の姿で描かれました。神レベルで大切にされていた家猫が死んだ場合は、飼い主は眉毛を剃って喪に服する習慣まであったとか。
そのエジプトからヨーロッパに猫が渡り、またキリスト教が布教されるようになると、猫の受難時代が訪れるようになります。豊穣の象徴は裏返せば淫欲の象徴とも取られ、奔放な猫の性質や容姿が悪魔的だとも受け取られるようになったからです。
そんなわけで猫は古代エジプトでは神にたとえられていた存在だったのに、キリスト教下では魔女の手先として虐殺される時代を迎えるようになるのです。どうやらこの時期は魔女のみならず猫(特に黒猫)まで火炙りにされたり、塔から落とされたのだとか。猫のみならず猫を飼う人も処刑されることに。
またキリスト教流布以前から夏至の祭り(後に聖ヨハネの日の前夜祭)には猫焼きという、複数の猫を袋や籠に詰め込んだり、木に磔にして焚き火にする厄除けの祭りも行われていたようです。人々は燃やしながらダンスを踊り、魔力を持つと考えられていた猫の燃え残りや灰は幸運のおまもりになるとして大事に持ち帰られたのだとか。
しかし猫を葬った先に登場したのが大量のねずみ。そしてねずみがペストを流行させ人々を困らせました。そのペストでさえ猫が運んできた、と考えられた時期もあったようですが、やっぱり猫がいないとねずみを駆除できないことに気がついて、猫迫害の時期が終焉を迎えたのです。
さて現代はもはやそんな猫の暗黒時代ではありません。ベルギーのイーペルでは昔の猫投げや火刑で処された猫を追悼する形で、1955年から3年に一度、5月に猫祭りを開催しています。昔は鐘楼から広場に向けて生きた猫を投げる習慣があったそうなのですが、現代の世ではぬいぐるみの猫を投げて、皆で奪い合うのです。世界から猫好きが集まり猫、魔女、ねずみなどに扮装して参加する人も多いて思い切り楽しんでいるそう。猫好きなら一度は参加してみたいですね!
左イギリスの大英博物館にある猫のミイラ、右イーペルの猫祭り
ドレスChat Tricoloreのネコ
薔薇が意味するものって何?
花の女王「薔薇」が意味するものは何なのでしょうか? まずは紀元前の話から。キリスト教では天上の楽園の薔薇には棘はなかったといいます。しかしアダムとイブが蛇にそそのかされ林檎を食べるという罪を犯した際に、棘が生えたのだそう。罪を犯していない聖母マリアを表す薔薇には棘がありません。赤い薔薇は「殉教」、白薔薇は「純血」表します。
「薔薇垣の聖母」ロッフォナー作、1848年
そして。このJuliette et Justineのワンピースに描かれた薔薇は英国ヴィクトリア時代の女性に愛された、今でいうコラージュ用シールパーツです。様々な色の薔薇で溢れていますね。赤薔薇は「愛情」、黄薔薇は「嫉妬」など花言葉を持ちますが、この服を着てたくさんの薔薇に囲まれたら貴方は薔薇からどんな物語やメッセージを受け取りそうでしょうか?
執筆/鈴木真理子
(2024年に書籍「ゴシック&ロリータ語事典」を上梓)