まだら模様のチューリップは「モザイク・ウィルス」に罹った病気の花
ロリータに愛される花、チューリップが誕生した土地は、パミール高原の低木に覆われた丘陵地です。なんと地球上で最も過酷な気候帯の一つに入るのだそう。この辺りの地を訪れたトルコ人がチューリップの球根を持ち帰り、10~11世紀になって観賞用として庭に植えられるように。そして15世紀にはトルコを含むイスラム圏でチューリップは「神の花」とされるようになります。チューリップはトルコ語で「ラーレ」と言いますが、アラビア語で綴ると「アラー」と綴る文字と同じになるのだそうです。時々お見かけする、まだら模様が入ったチューリップは、実はウィルスに感染して生まれた病気の花。17世紀にこのまだら模様の「センペル・アウグストゥス」というチューリップが偶然生まれた時は「なんと美しい花だ!」と大騒ぎになり、オランダで品種改良と販売のチューリップ・フィーバーとバブルが起きたそうです。
左「花のある静物画」ハンス・ボロンギエ画/1639年
右「センペル・アウグストゥス」の水彩画/1640年
むっちりリアルな女神の姿はルネサンス時代から
欧州で豊満な肉体を持つ裸体の男女がおおっぴらに描かれるようになったのは、ルネサンス期からです。それまでのキリスト教が支配した、裸体を描くなど「ありえない」時代が終了。発注主の注文に沿って画家は古代ローマやギリシャ神話をテーマに、裸の女性を堂々と描けるようになりました。発注主も画家も「ルネサンス万歳!」という感じだったでしょうね。Juliette et Justineのドレスに描かれている女性は出典もとが判明しませんでしたが、ラテン語で書かれた帯を持っているので、ルネサンス期かそれ以降に描かれた、古代ローマの女神かもしれません。胸以外はなかなかにむっちりと
『ヴィーナスとアドーニス』アンニーバレ・カラッチ画/1595年頃/美術史美術館所蔵
2色ドレスの女神
女性は「花」「虫」しか描かせてもらえなかった
欧州で女性が画家として活躍できるようになったのは18世紀頃。それまで宗教画や歴史画、神話を描いたものは絶対、男性が手がけるものでした。ヌードの女神像ももちろんです! それらより格下とされた花や果物、といった静物画から女性が描くことが許されるようになったようです。油絵や版画も男性しか携わることが許されなかったようですが、やはり格下扱いの水彩画から入り込めたようです。初期の代表的な女性画家の一人には、アンナ・メーリアン(1647-1717年)がいます。植物や虫を水彩で描いて刺繍作家や画家のための図案帳として販売しました。またその観察眼から科学者として高く評価されるようになり、彼女の功績をたたえ、現代になってからドイツのお札や切手に彼女の顔が描かれています。
Juliette et Justineのこのドレス全面に描き出された花は、ドイツ人の女性画家、バーバラ・レギーナ(1706-83)によるもの。マリアよりは後世の人だったので、バーバラの活躍した18世紀には、油彩で描く複数の女性の画家が現れるようになっていました。 左「パロットチューリップ、オーリキュラ、アカスグリの花とスグリシロエダシャクの成虫・幼虫と蛹」マリア・レギーナ・ディーチ画
右「昆虫と棘のあるロバアザミ」バーバラ・レギーナ・ディーチ画/18世紀/NYアラダーギャラリー蔵
執筆/鈴木真理子
(2024年に書籍「ゴシック&ロリータ語事典」を上梓)
参考文献
⚫︎「チューリップ・バブル 人間を狂わせた花の物語」マイク・ダッシュ著、明石三世訳/文藝春秋刊/2000年)⚫︎「巨匠に教わる絵画の見かた」視覚デザイン研究所編/視覚デザイン研究所刊
⚫︎https://en.wikipedia.org/wiki/Barbara_Regina_Dietzsch