リボン飾りのエシェル&ストマッカー
ロココ時代の貴婦人の服でよく見かける、胸元からお腹を覆う三角の部分。これはストマッカーといい、当時は服とはつながっておらず、着る時にピンでつなぎ留めていました。そしてこのストマッカーこそが、服の中で一番華やかに飾られる部分とされていました。私達ロリータに最も知られるそのストマッカーの飾りといったら、縦にずらり並んだリボン飾りですね。この並べ方はエシェル(フランス語で梯子の意味)といいます。18世紀のフランスで、ルイ15世の愛妻ポンパドゥール夫人(1721-1764年)他、貴婦人たちが愛用。リボンの数は身分によって決まっていて、身分が高ければ当然たくさん付けることが許されたようです。
現代の世ではロリータ服で復活したエシェルですが、大きさが均一に並んでいることが多いですね。Juliette et Jutineのエシェルのリボンは、当時の作り方にならって、上から下に向かって小さくなっていく作りになっています。
左:『ポンパドール侯爵夫人』フランソワ・ブーシェ画、1756年、アルテ・ピナコテーク蔵(ドイツ)
右:ドレスDouceur Azurée
祝祭の飾り、フェストゥーン
花や果物、葉っぱなどを綱状態にした、半円形の飾りをフェストゥーン(花綱模様)といいます(円形のものはガーランドといいます)。古代ギリシャ、ローマ時代には神への供物として動物を捧げる際に、祭壇に花で編んだ綱で飾っていました。「フェス」とは「フェスティバル(祝祭)」ゆかりの言葉。つまりフェストゥーンは豊穣のシンボルなのです。
それが後に装飾模様となり、建物の壁面に彫刻されたり描かれたりなどして、洗練された建築の装飾として流行しました。その後はルネサンス期に古代ローマ時代の文化や美術が復興されて以降、建築・インテリア・絵画にと、再び取り入れられていくようになるのです。
このワンピースのレースは、そんな祝祭のフェストゥーン柄を編み込んで作った高級レースをたっぷり使っています。
『花と果実をともなう聖家族』1620ー23年、J・ブリューゲル(父)画、アルテ・ピナコテーク所蔵(ドイツ)
ドレスDouceur Azuréeのレース
王侯貴族のための金のブレード
ブレードとは、編んで作るテープ状の紐のこと。ブレードを衣服に付けることが欧州の富裕層の間で人気になったのは、16世紀から。この頃「スラッシュ」という服に穴を開けて下の服を引っ張り出して見せる、ドイツ発のファッションが欧州中で大流行したのです。その穴の留める飾りとして、またその他の部分にもたくさんのブレードが使用されたのだそう。またその昔、私たちが使うような金色の系というものはなく、金そのものを叩いて細くしたり溶かして系状にして手芸に使っていたようです。金の服の飾りはとんでもない贅沢品だったといえますね。たぶん王侯貴族にしか使用が許されなかったであろう、金のブレード。そのブレードを付けた服を着る時は、私たちも姫になった気分で過ごせるはず……。
『ヘンリー8世』ハンス・ホルバイン画、1537年頃
ドレスDouceur Azuréeのブレード
執筆/鈴木真理子
(2024年に書籍「ゴシック&ロリータ語事典」を上梓)
参考文献
『アクセサリーの歴史事典』キャサリン・モリス・レター&ベス・ヴィオラ・オーク著、古賀敬子訳、八坂書房刊『すぐわかるヨーロッパの装飾紋様 美と象徴の世界を旅する』鶴岡真弓編著、東京美術刊
『ヨーロッパの装飾と文様』海野弘著、パイ インターナショナル刊
『ヨーロッパの文様事典』視覚デザイン研究所編、視覚デザイン研究所刊