バルセロナで見つけた「圧倒的な美」を洋服に閉じ込めた
Juliette et Justineのデザイナー、中村真理はこう考えています。「圧倒的な美」を纏う人間は、「圧倒的な美」を持つ存在になる、と。美しい洋服を身につけた時、人間は確かに美しく煌めきを放つのです。
今回の「Hospital de Sant Pau Robe (jsk)」は、バルセロナ(スペイン)の建築からそのモチーフを取ったもの。中村はJuliette et Justineのカタログ撮影のため2015年にバルセロナに赴きました。その際バルセロナの街中に数多ある、19世紀末から20世紀初頭に建てられた「モデルニスモ」と呼ばれる建築物に多数訪れ、神聖さと建築を融合した、完璧な美がここにあると感激。そしてこの存在を服に閉じ込め、着る人たちと分かち合いたいと考えたのです。
草花の優雅な線を彷彿させる「アール・ヌーヴォー」
では「モデルニスモ」とは何なのでしょうか。「アール・ヌーヴォー」という装飾様式がベルギーから始まり、19世紀末から20世紀初頭に掛けて欧州中に一斉に花開きました。イラストでは「アルフォンス・ミュシャ」が有名です。みなさんもご存知だと思いますが、草花を思わせる流麗な線が特徴で、繊細で美しいですね!アール・ヌーヴォーはイラストだけでなくアクセサリー・室内装飾そして建築などにまで及ぶ装飾様式となりました。
欧州ではそれまで重厚な建築物が多かったのですが、この頃からちょうど鋳鉄やガラスをふんだんに使えるようになったため、アール・ヌーヴォーらしい草花を感じさせる、有機的で繊細な曲線作り、つまり軽やかな造りが可能になったのです。
アール・ヌーヴォーは、国によって名前が変わります。ドイツで「ユーゲント・シュティール(青春様式)」、ベルギーとフランスで「アール・ヌーヴォー(新芸術)」など。もちろん各国の特徴があります。
スペインで誕生した「モデルニスモ」建築
ヨーロッパの最南端であるスペインにもアール・ヌーヴォーの波は押し寄せて、独特の形を持った「モデルニスモ(現代様式)」が生まれました。最も有名なモデルニスモ建築は、アントニオ・ガウディの「サグラダ・ファミリア聖堂」です。こちらは1883年に着工して今だ出来上がっていませんが……。
そのガウディが建築学校に在籍していた時先生だったのが、この「Hospital de Sant Pau Robe (jsk)」のテキスタイルに使った「サンパウ病院」の建築家ドメニク・イ・モンタネールなのです。彼が1902年に手がけた建物群の一つで、現在ユネスコ世界遺産になっています。※しかしこちらは完全なモデルニスモではありません。モンタネールの完全なモデルニスモ作品には世界遺産に指定された「カタローニャ音楽堂」があります。
「トンボの羽が幸福を運んでくれますように」という願いを
さて、スカートの中央部くらいに、大きく広がっているのはトンボの羽です。アール・ヌーヴォーでは草花の線だけでなく羽を持った虫、とくにトンボがモチーフとしてよく使われているのです。中村は着る人がもし悲しみや疲れを抱いていたら、この服を着ることによってトンボがすばやく幸運と癒しを運んでくれますように、という気持ちを込めてデザインしたそうですよ。
執筆/鈴木真理子
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