L'âme de la dame(JSK)-Art Cloumn-

17~18世紀の王様は、中国&日本の「磁器」コレクター

 このドレスの生地いっぱいに広がる皿は、Juliette et Justineのデザイナー中村によると、ドイツの名窯ブランド「マイセン」の1780~90年頃のものだそう。マイセンは、欧州で初めて磁器を作ることに成功したブランドです。16世紀に中国、続いて日本の磁器が欧州に輸入され、各国の王侯貴族は夢中になってコレクションを始めました。土から作る「陶器」はありましたが、石から作る真っ白で薄くて美しい「磁器」は、当時の欧州にはなかったのです。

ドレスL'âme de la dame

左:「ティーセット」ジャン・エティエンヌ・リオタール画/1781-3年/ゲッティ・センター蔵(アメリカ)
右:「パリ、タンプル宮・四面鏡の間での英国風茶会」1776年/ヴェルサイユ宮殿蔵(フランス)
※向かって左に、サロンでチェンバロの演奏をする幼きモーツァルトが。右にティーセットが置かれたテーブルがある

 ドイツのアウグスト2世(1670-1733年)は文化や美術を愛する王で、フランスのヴェルサイユ宮殿を訪れた際に、宮殿にも宮殿内に集められた磁器にも夢中になります。帰国後さっそく磁器を集めつつ、「自国でも磁器を」と欧州初の磁器ブランド「マイセン」を誕生させました。これらの皿は実は食器として使っていたわけではなく、並べて眺めて悦にいったり客に自慢するためのものです。アウグスト2世のツヴィンガー宮殿ほか、欧州の宮殿には「磁器の間」という、所狭しと磁器を飾りまくった部屋があるのです……!

ベルリン、シャルロッテンブルク宮殿の磁器の間(ドイツ)

マイセンを作った錬金術師ベドガーは、城に幽閉された 

 ではマイセンが生み出される前の「闇の物語」もお話ししておきましょう。アウグスト2世は自国にヴェルサイユ宮殿みたいな城を建てるための、費用作りを考えるようになりました。そこで頼ったのがヨハン・ベトガーという錬金術師。「賢者の石を持っていて、金を作ることができる」という触れ込みを信じ、半ば誘拐して雇ったのですが、金はいつまでもできません。「金ではなく磁器を」と路線変更することになります。そしてドイツで白陶土「カオリン」を見つけ出し、1709年に磁器を作ることに成功。かくしてここに欧州初の磁器ブランド「マイセン」が誕生するのです。

左: 「2010年、ドイツ磁器誕生300周年切手」
※描かれているのはアルブレヒト城内。向かって左端がアウグスト2世。その隣がベドガーと考えられる
右:「蔓の入った花瓶、ベドガー磁器」 ベトガー作/1713–20年/ベルリン美術館蔵(ドイツ)

 しかしアウグスト2世は、この磁器作りの秘密を外に漏らさぬようにと、ベドガーをアルブレヒト城に軟禁状態に。結局彼は酒に溺れる以外なすすべもなく、37歳でアル中で亡くなりました。結局このマイセンに関わった職人達が次々逃亡、ないしは誘拐や引き抜きされて、各国にその技術が伝わっていくのですが……。昔も今も企業秘密が漏れて盗まれていくのは同じですね!

 そしてその後はシノワズリ(中国趣味)の絵柄が飽きられたところで、このドレスのプリントのような欧州らしい絵付けに変化していきます。

扇子は8世紀の日本の、儀式用メモ帳が起源だった

 さてこのドレスの中にちらちら見えている、扇子。この折りたためる扇子は、日本が作り始めたもの。奈良時時代(8世紀)に貴族が宮中の儀式の際に、行事の進行の順番を忘れぬよう書き留めておいた2~3センチ幅の細長い木片「木簡」を重ねた作ったものでした。その後平安時代になって竹に紙を貼った、涼を取るための現在の扇子が登場します。

ドレスL'âme de la dameのプリントデザイン

 その扇子が16世紀に日本とポルトガルとの交易によって欧州に持ち込まれるのです。それまでも欧州の間では権力の象徴として奴隷や従臣に持たせ仰がせる扇、ハエ叩きとしての扇もありましたが、日本から持ち込まれた扇子は貴婦人が自ら持つためのアクセサリーになりました。欧州でも作られ、金・銀・真珠貝・象牙なども使用して、豪華なものとなっていきます。

左:「彩絵檜扇」12世紀(平安時代)/厳島神社蔵(日本)
右:「扇を持った女性」ディエゴ・ベラスケス画/1637-40年/ウォーレスコレクション(イギリス)

 18世紀にはのフランスでは富裕層の結婚式の際に花嫁が招待した客に扇子を渡す習慣が生まれたので、多くの扇子が生産されました。私たちが欧州の博物館で見られる扇子はこの結婚式の贈り物が多いのだそうです。

「ルイ14世時代の折りたたみ扇子」1700年 ※鼈甲と真珠が使われている

執筆/鈴木真理子

※2024年7月10日に初の著書『ゴシック&ロリータ語辞典』が出版されます!

 

参考資料:

⚫︎「マイスターの国: 伝統がはぐくむドイツ」谷 克二著/河出書房新社刊

⚫︎「欧州陶磁紀行―マイセン|ウェッジウッド|セーヴル」南川三治郎著/世界文化社刊

⚫︎「わかりやすい西洋焼もののみかた: ブランド・特徴・歴史・選び方が一目瞭然」南大路 豊監修/有楽出版社刊

⚫︎「マイスターの国: 伝統がはぐくむドイツ」谷 克二著/河出書房新社刊

⚫︎「アクセサリーの歴史事典 :下(脚部・腕と手・携帯品)」キャサリン・モリス・レスター&ベス・ヴィオラ・オーク著、古賀敬子翻訳/八坂書房刊

⚫︎「名画のティータイム: 拡大で見る60の紅茶文化事典」Cha Tea 紅茶教室著/創元社刊

⚫︎「Coffee or Tea Meissen」南川三治郎写真、大平雅巳文/美術出版社刊

⚫︎https://www.ohnishitune.com/about-sensu/history/

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