" Le paradis (Jardín de las delicias) JSK" Art Column-

絵画「快楽の園」の意味は永久にわからない

 Juliette et JustineのジャンパースカートLe paradis (Jardín de las delicias)は、ピンクや黄色、若草色が使われ、弾けるようなポップさや瑞々しさに溢れています。でもよく見ると描かれているのは、500人もの裸の男女に怪物、拷問器具と、あやしい感じのものばかり。 
 この絵の作家はオランダの画家ヒエロニムス・ボス(1450-1516)。彼について残された文献はあまりなく、後世になって研究者達を困らせています。わかっているのはボスは画家一家に生まれて成功した人で、財産も多く持っていたということくらい。
 木男と木男の中の売春宿兼飲み屋で酔っ払う男
「快楽の園」ヒエロニムス・ボス画/1500年頃/プラド美術館蔵 より。
画中に描かれた、ボス自身では?と言われている人物 。

 ボスの描いた絵についてもその絵の意味することはほとんどわかっていません。しかし絵を発注したのはナッサウ伯ヘンドリック三世で、自分の妻との婚礼の祝いとして描かせたのでは、と推測されています。しかし裸の男女が踊っているのになぜ婚礼祝いに?という感じですが、絵について説明しますね。

「ヘンドリック三世・ファン・ナッサウ=ブレダの肖像」ベルナールト・ファン・オルレイ画

なぜ「婚礼の祝い」の絵画なのか?

  まずこれはカトリック教会では「三連画」といって、3枚のパネル絵を繋いで並べたもので、本来は教会の儀礼の時に祭壇周辺で使用する飾りです。
「快楽の園」ヒエロニムス・ボス画/1500年頃/プラド美術館蔵 

 左のパネルは「エデンの園」を描いたもので、アダムとイブが神によって引き合わされています。これから夫婦になる2人には相応しい絵のようですね。でも2人の前には黒い池があって、不穏そうな未来も感じとれます(笑)。
「快楽の園」ヒエロニムス・ボス画/1500年頃/プラド美術館蔵 より

 中央のパネルはエデンの園を追放された後に、気ままに快楽に酔いしれるアダムとイブの子孫達の姿が描かれています。苺やさくらんぼなどがあちこちに描かれているため、この絵は元々「苺絵」「肉欲」と呼ばれていました。赤い果物はエッチな気持ちにさせてくれるようです(左の画像)。すでに睦みあっているカップルの姿も(右の画像)。
「快楽の園」ヒエロニムス・ボス画/1500年頃/プラド美術館蔵 より

 中心部には池があり女性達が水を楽しんでいます。そしてその周囲を男性達がぐるぐる回っていますが、女性達にはたどり着く様子がありません。実はこの女性の数は時間の単位(1、2、4、7、12)で描かれ、男性は十二宮に関する獣にまたがっています。つまり永遠に続く「時間の輪」を表現しているのです。
 「快楽の園」ヒエロニムス・ボス画/1500年頃/プラド美術館蔵 より

右のパネルは地獄の大合唱!

 そして右のパネル。快楽を貪った者達がたどり着く「煉獄」を表現している様子です。鳥の頭を持つ魔王が人間を食べつつ、お尻から捻り出していますね。(左の画像)
 天使の楽器とも呼ばれるリュートとハープでさえ性行為をして、さらに人間を串刺しにしています。リュートの下敷きになった人間のお尻には楽譜まで描かれ、皆で地獄の大合唱をさせられている様子……。(右の画像)
 
「快楽の園」ヒエロニムス・ボス画/1500年頃/プラド美術館蔵 より

 つまり「結婚して淫欲ほか享楽に耽っていると、地獄に堕ちちゃうぞ!」という、ユーモアたっぷりのナッサウ伯爵から自分と妻への、戒めの贈り物だったというわけなんでしょうね。
 ボスはこういった絵をいくつも残しており、キリスト教的にはもちろん背徳の絵と思われていたのではと考えられます。でも王族など真の富裕層かつ知識層達がボスの絵の熱狂的なコレクターだったので、どうやらおとがめはなかったようです。ボスもパトロン達も熱心なクリスチャンだったということも付け加えておきます。
  さてこんなエスプリに富んだ絵画を、Juliette は、スカート部分に大きくプリントしたわけです! 当時のリッチでインテリな好事家気分で着てみてください!裾から覗く、ウロコみたいなレースもあまり見ないタイプで素敵です!

ドレス  Le paradis (Jardín de las delicias)

怪物達はなぜキリスト教美術に登場したか

 最後に。気になる絵の中の怪物達はなぜ描かれたのか、と気になる人が多いようなので説明しておきますね。キリスト教世界では中世から悪魔を描くことはありました。もちろん行為の善悪をわかりやすく示すためです。それからは怪物なども登場。手書きの聖書「写本」ではところどころ、読む人たちを楽しませるために飾りで怪物などを描いたり、また教会の外側には「魔除け」として怪物を彫刻しているんですよ!ボスの怪物はその流れで描かれたのでは、と言われています。

 「帽子かぶりのマンティコア」第764写本より/1225–50年頃/ボドリアン博物館蔵

 
執筆:鈴木真理子
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 ー参考文献ー

「異世界への憧憬 ヒエロニムス・ボスの三連画を読み解く」木川弘美著/ありな書房
「快楽の園 ボスが描いた天国と地獄」神原正明編著/新人物往来社
「画集 ヒエロニムス・ボス その時代と作品」ローズマリー・シューダー著、神原正明監修/エディションq
「すぐわかる 画家別 幻想美術の見かた」千足伸行監修/東京美術
「すごすぎる絵画の図鑑 名画のひみつがぜんぶわかる!」青い日記帳著、川瀬佑介監修/KADOKAWA
「とんぼの本 謎解きヒエロニムス・ボス」小池寿子著/新潮社
「ヒエロニムス・ボス 『快楽の園』を追われて」中野孝次著/小学館
「ヒエロニムス・ボス 奇想と驚異の図像学」神原正明著/勁草書房
「ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む」神原正明著/河出書房新社
「ヒエロニムス・ボス全作品」高階秀爾編著/中央公論社
「ヒエロニムス・ボスの世界 大まじめな風景のおかしな楽園へようこそ」ティル=ホルガー・ボルヒェルト著、熊澤弘訳/パイ・インターナショナル
「ふくろうの本 図説 ヒエロニムス・ボス 世紀末の奇想の画家」岡部紘三著/河出書房新社

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