後期ゴシック聖画のカルロ&ゴシック・リバイバル期の英国人
Juliette et Justineのこのドレスの、中央の絵を描いたのはカルロ・クリヴェッリ(1430-95年)。ヴェネチア出身の画家ですが、後世にあまり彼についての資料は残されていません。ちょっとしたトピックは、1457年に他人の妻を誘拐した容疑で逮捕され、その後ヴェネチアを追い出されたということくらいです。
しかも死後彼の作品は忘れられ、ばらばらにされて散逸。19世紀になってようやく評価が高まり収集や修復が始まりました。特に英国での評価が高く、英国のナショナル・ギャラリーの一室は彼の絵だけで埋め尽くされています。
18~19世紀の英国はゴシック・リバイバル発祥の地。ゴシック小説の誕生から始まり、建築では国会議事堂、デザインではウィリアム・モリスを輩出するなどゴシック・リバイバル華やかな時代でした。そんな英国のゴス好みの気質が、後期ゴシック絵画のカルロを引き寄せたのかもしれません。ちなみにJuliette et Justineのデザイナー中村真理が最も好きな画家だそうです。カルロの美しい絵をもう1点、ここに紹介しておきますね。
ドレスRobe du Sauveur
『聖マグダラのマリア』カルロ・クリヴェッリ画/1490年以降/アムステルダム国立美術館(オランダ)
『つばめの聖母』出演者たちは誰!?
このドレスに描かれている4人は誰でしょう。向かって左から、教会の模型を持つ神学者ヒエロニムス(347ー420年)、中央はマリアと、原罪の意味を持つ林檎に触る幼子イエス(紀元前4年ー紀元後30年)。そして右は彼を撃った矢の側に立つ、殉教者の聖セバスチアヌス(?ー287年)。こうして見ると、聖母子以外は同時代に生きていない人物ばかりですね。彼らの上にはつばめが描かれていて、「復活」を意味しています。
『つばめの聖母』カルロ・クリヴェッリ画/1480年/ナショナル・ギャラリー蔵(イギリス)
教会で使われた金のタペストリー
さてこのワンピースの胸元や、スカートにあしわられたのは何だと思いますか? なんとこちらは教会で使用された金のタペストリーなんです。地には革が使われており、丁寧な刺繍が施されています。中央の丸の中には「IHS」という文字が見えますね。これはギリシャ語名「イエス」の最初の3文字で、キリストのシンボルとなっています。
カルロの聖画に、教会のタペストリーが使われたこのドレスを着た私たちは、まさに神殿をまとった気分になるかも……・
執筆/鈴木真理子
(2024年に書籍「ゴシック&ロリータ語事典」を上梓)
参考資料:
⚫︎「超絶技巧の西洋美術史」池上英洋&青野尚子著/新星出版社刊
⚫︎「すぐわかるキリスト教絵画の見かた 改訂版」千足伸行著/東京美術刊
⚫︎「澁澤龍彥 西欧芸術論集成 上」澁澤龍彥著/河出文庫
⚫︎「キリスト教美術シンボル事典」ジェニファー・スピーク著、中山理訳/ちくま学芸文庫
⚫︎https://fr.wikipedia.org/wiki/Carlo_Crivelli_(peintre)
⚫︎http://yukipetrella.blog130.fc2.com/blog-entry-1980.html#:~:text=%E5%8F%A4%E4%BB%A3%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%81%A7%E3%81%AF%E6%AD%BB%E3%82%93%E3%81%A0,%E3%81%8B%E3%82%89%E7%B9%8B%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%8B%E3%80%82
⚫︎https://www.kyobunkwan.co.jp/kyobunkwan-pedia/contents/trivia-4.html