美の静寂に、とらわれて。
静謐な光沢を湛えるシャンタンの上に描かれたのは、花と果実、蝶と髑髏──いずれも、時の儚さと美の終焉を象徴するヴァニタスの構成だ。豪奢なバロック装飾のフレームがそのすべてを囲み、重厚でありながら、どこか夢のように淡い幻想を宿している。17世紀に描かれたヴァニタス静物画と18世紀ロココの装飾美──それぞれ異なる時代に生まれた様式が、今、この一着の中で静かに溶け合っている。

《Rococo Vanité》は、様式美の交差点に生まれた詩的な衣服だ。
バロック期の「死を思え」という厳格な寓意と、ロココの「可憐に、優雅に装う」という審美眼──相反するはずの二つの美意識を、ドレスという媒体に同居させた構築である。そして胸元には、ロココドレスのストマッカー(stomacher)を想起させる装飾を据えた。縦に連なるリボンは、結ぶという所作そのものを意匠へと変え、可憐さの奥に“儀式”の気配を忍ばせる。要所に添えられたタッセルは、サロンのカーテン留めに残る手仕事の影──軽やかな甘美の中へ、ひと房の重みと気品を落とし、視線を静かに中心へ導いてゆく。
花の鮮やかさは果実の瑞々しさと共に、やがて腐敗と死に至る運命を示唆する。無垢な仔羊はすでに命を終え、装飾の中で眠っている。それでも、このドレスが不思議なことに沈んだ印象を与えないのは、それらすべてを抱くフレームが絢爛で、優雅で、美しいからだ。

カラーは2色。
光を優しく反射するミントブルーは、まるで曇りのない静寂を思わせる。
対してブラックは、深い闇の中にわずかな光を宿すように、沈みながらも気品を放つ。どちらの色も、身に纏ったとき、着る者自身の存在を“物語の登場人物”へと変える力を持っている。
《Rococo Vanité》は、歴史上の美学の交差点で生まれた一着である。
ロココの装飾性と、ヴァニタスの象徴性。夢と死。甘美と虚無。
相反する美意識をひとつに織り上げることで、このドレスは語らずとも深い意味を帯びる芸術となった。