"Ténèbres Robe"-Art Column-テネブル ローブ-

銅版画作家:林由紀子

  林由紀子さんは1958年東京生まれ、始めはイラストレーターとして活躍してたが、36歳の時に坂東壯一氏に銅版画を師事し、最も古い技法「エングレーヴィング」の勉強をし始めた。彼女は2年かけてビュランを習得し、その後徐々に蔵書票作品の注文を制作した。彼女の作品では妖艶な女性と薔薇の花がよく登場している。その丹念に描かれた線と独特なロマンティックさが好評を得て、2010年に124点が収録された銅版画蔵書票集「プシュケの震える翅」を出版し、2020年に作品集『ペルセポネー回帰する植物の時間』が出版された。

妖艶な女性像:「プシュケの震える翅」

 林由紀子さんの作品を眺めると、運命のような力を感じさせる。人類である私たちはまだ探求しきれない何か崇高な存在に、高い所から眺められ、影響されているような力である。トランプカードのような絵柄には、正・逆位置の女性が描かれ、まさしくギャンブルをする時のような偶然性を感じさせる。朝食を焼きたてのパンにしたい、久々にこの人に会いに行く、公園で散歩しようなど、誰も気にしてない小さな決断で、それぞれの人生に喜劇或いは悲劇も起こりうる。だが崇高な存在からすると、どれも平等で同じ重さであるものだ。

 林由紀子さんが描く女性たちはいつも静かな水面のごとく、冷静な存在である。その視線の先にいるのが絵を眺めている私なのか、それとも、人間である我々が到達できない遥か遠い世界なのか、計り知れない。たとえ死を連想させる髑髏に抱かれても、彼女たちから恐怖・絶望などを感じ取れなかった。まるで死というものは常に我々と共にいるかのようなメッセージが、その冷たき、穏やかな表情から漂って来る。

 描かれた女性たちのもう一つの特徴はその独特なエロティシズムである。原罪の象徴である蛇を見つめるイブ、白鳥と交じるレダ、大輪の薔薇と棘に囲まれる裸の少女...野性を帯びるそのエロティックさが、獣の身と美しい女性の姿で青年たちを誘惑し、そしてその血と肉を食らうスフィンクスを思い出させる。また作品で登場した花と植物は少女の手、髪、胴体のように緻密に描かれ、まるで自分の意志を持っているような存在で、少女たちのデカダントな妖艶さを支えている。 

Ténèbres Robe:共に「ゆるやかに明るい奈落へ」 

 妖艶な銅版画作品をお洋服にプリントした美しいローブ。華やかな二色展開、パープル調のエクリュとラベンダーグレー調のブラック、知的な女性印象とエレガントさを感じさせる。スクエアネックのデザインでデコルテをさらに女性らしく魅せると同時に、緻密なフリルとデリケートなレースで、ドレスをさらに柔らかく、豊かに表現する。サーブルのポワントや豪華なコサージュ、或いはカラフルなチュールスカートなどを合わせると、さらにドレッシーで華やかなコーディネートを楽しめる。

 繊細で優雅な線にクリエートされた林由紀子の少女たちは、大輪の薔薇に守られる夢世界に生き、その目線の先に何があるのか、誰も見えない。彼女たちは「プシュケの震える翅」。その微弱な風の余韻から、私たちはその甘美を窺える。

 さあ、怪奇的なロマンティック世界を身に纏い、共に「ゆるやかに明るい奈落へ」。

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