パリスの審判
この度、ドレスのプリントに使用された絵画作品は、ナショナルギャラリーに収蔵されたThe Judgement of Parisである。この作品は約1615年オランダの画家・銅版画家ヨアヒム・ウテワール (Joachim Anthonisz Wtewael)によって描かれ、 描かれている場面は、神話に登場する最も有名な戦争の一つ、トロイア戦争を巻き起こしたパリスの審判である。トロイア戦争の物語は、様々なバージョンがあるが、初めて語られたのがギリシャ詩人ホメーロスの作品『イーリアス』の中であった。
海の女神テティスと英雄ペーレウスの結婚を祝う宴に、招待されなかった不和の女神エリスが訪れ、「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎を宴会に投げ込んだ。林檎は爆弾のように、もともと平和で楽しい宴を壊した。これを巡って最高位の女神ユーノー・戦の女神ミネルウァ・美の女神ウェヌス、三人の女神が激しい奪い合いを始めた。仲裁としてイリオス王プリアモスの息子、イデ山で羊飼いをしているパリスが選ばれた。女神たちは勝つためにそれぞれ賄賂をパリスに差し出した。ユーノーは無限の富、ミネルウァは権力、ウェヌスは最も美しい女ヘレネーを与えると約束した。人間の本能であるかもしれないが、結果としてパリスは美女を選び、ウェヌスがこの競争で勝ち取り、この神々での争いがまたトロイア戦争の火種となってしまった。
平和な宴会に潜む争い
画面では前後まったく違う情景となっている。背景の森で結婚を祝う群れが、空からエリスの到来を目撃し、白い彫像のように固まってしまい、異様な緊張感を描き出した。前景ではパリスが神々の前で黄金の林檎をウェヌスに渡す瞬間が描かれている。猟犬が穏やかに彼の足元に横たわり、羊と牛たちも静かに休んでいる。右側のニンフが花の冠をかぶり、サテュロスいちゃつくしている。全体的に平和で穏やかな雰囲気となっている。
けれど女神たちはそれぞれ面白い表情とポーズで描かれている。左にいるのがユーノー、シンボルである聖鳥の孔雀枝に乗り、彼女は手を腰に当て、直接画面外の観客の方を見て、まるで誰がこの審判を許したの、納得いかないとみんなに訴えているようである。右側の戦の女神ミネルウァはヘルメットをかぶり、手に長いスピアを持ち、まっすぐとウェヌスを睨んでいる。真ん中のウェヌスの体は優美でゆったりとした曲で描かれ、首に真珠のネックレスを付け、まるで本来この林檎は彼女のものであるように、優雅にパリスから黄金の林檎を受け取っている。可哀そうなパリスはまだ何も察してないが、三人の女神の嫉妬、争いによって示されたこのドラマティックな場面が、やがて彼自身、そして人間界に大きな災難を及ぼしてしまう。
三人の女神とパリス
休憩している羊
エリスと宴会の人たち